スペースワンダーを使用した運動介入が
身体機能および健康関連QOLに及ぼす影響の検討

目的:スペースワンダーを用いた3ヶ月間の運動前後の身体機能および健康関連QOLの変化を評価した

測定日時:
・運動前:2021年7月14日、2021年7月22日
・運動介入後:2021年10月20日、2021年10月28日
測定環境:
・緊急事態宣言期間:2021年7月12日~2021年9月30日
・東京都の新型コロナウイルス新規感染者数の推移は図1に示す
使用機器
身長計、体重計、メジャー、ハンドヘルドダイナモメーター、ストップウォッチ、 椅子、ポール、重心動揺計
対象者情報:
対象者:八王子市に在住する65歳以上の高齢者27名(運動介入前後の評価を両方実施している者を解析対象とした)
年齢:82.6±6.0歳
性別:男性3名(11.1%)、女性24名(88.9%)
身長:男性165.5±5.0cm、女性147.8±5.8cm
体重:男性57.9±14.6kg、女性49.1±10.3kg
BMI:男性22.8±1.4kg/m2、女性26.5±3.9 kg/m2
測定項目:
測定は運動介入前後で実施した。
対象者の基本属性として、年齢、身長、体重、BMIを評価した。
 身体機能評価として、立ち上がりテスト、2ステップテスト、膝伸展筋力、開眼片脚立位時間、Timed Up and Go test (TUG)、重心動揺計の指標(LNG、LNG/TIME、ENV.AREA、REC.AREA、RMS.AREA)を測定した。
 身体機能および健康関連QOLの質問紙評価として、Elderly status assessment set (E-SAS)、The MOS 8 item Short-Form Health Survey (SF-8)を聴取した。
考察

 スペースワンダーを使用した運動介入により、2ステップテストと開眼片脚立位時間の改善を認めた。
 今回の対象者の2ステップテストの平均値は、介入前は0.97±0.27cm 、介入後は1.02±0.26cmであった。80-89歳の全国平均の1.20±0.23㎝と比較すると、やや低値を示す対象集団であった。2 ステップテストは最大歩幅を用いたテストである。より大きな歩幅を獲得するためには,下肢が大きな地面反力を受け止めて推進力を発揮し、重心を前方に移動させることが重要である。また、大きな歩幅で歩く際には、片脚のみで身体を支える時間(単脚支持期)が長くなるため、下肢筋力やバランス能力が必要とされる。今回のスペースワンダーを用いた運動課題の内、前方へ大きく踏み出す運動などはハーネスによる後方からの抵抗に抗した前方への推進力を鍛えることができた。そのため2ステップテストの改善に繋がったと考える。また、2ステップテストは歩行速度に加え、高齢者の健康維持において重要な体力の概念である健康関連体力と関連性があることが先行研究で明らかにされている。そのため、2ステップテストの改善につながるスペースワンダーを使用した運動は有用であると考える。

 また、動的立位バランス能力の指標である開眼片脚立位時間は改善を認めたが、静的立位バランス能力の指標である重心動揺計は改善を認めなかった。これは運動課題の特異性によるものと考えられる。静止した両脚立位は、健常高齢者にとって最小限の神経-筋活動で遂行可能な比較的平易な課題であったと考える。一方で、片脚立位は膝関節、股関節、体幹を含めた複雑な全身の運動制御が要求される。今回のスペースワンダーを用いた運動課題は、転倒リスクがなく、不安定な支持面でのバランスの制御を学習することができた。また、運動課題の多くは膝関節、股関節、体幹を含めた複雑な全身の運動制御を行う。さらに、運動課題の中に片脚立位の運動が含まれているため、課題特有の運動を学習できたことも改善の理由として挙げられる。先行研究の中にも、運動の課題特異性の影響から介入前後で静的立位バランスは改善を認めないものの、開眼片脚立位時間の改善を認めることが報告されている。そのため、今回のスペースワンダーを用いた運動も一部の先行研究を支持する結果となった。片脚立位時間は転倒や歩行速度など健康寿命の延伸に重要な指標との関連性が多く報告されている。そのため、転倒リスクなく安全に片脚立位時間の改善につながるスペースワンダーを使用した運動は有用であると考える。
 一方で、膝伸展筋力やTUGの改善は認めず、LSAは有意差のないものの介入後に低値の傾向を示した。これは、新型コロナウイルス蔓延による外出自粛の影響と考える。

 今回の運動介入前の評価日は2021年7月14日と7月22日で、運動介入後の評価日は2021年10月20日と10月28日であった。東京都の緊急事態宣言期間は2021年7月12日から2021年9月30日であった。また、図1は東京都の新型コロナウイルス新規感染者数の推移であり、特に8月から9月は過去最高の新規感染者数であった。緊急事態宣言は9月で解除されたが、過去最高の新規感染者数であったため緊急事態宣言解除後も外出に対しては慎重になり、LSAの減少に繋がったと考える。LSAの低得点化は、膝伸展筋力や歩行速度の低下に関連している。また、新型コロナウイルスによる外出制限は、東京都を含む3大都市圏の60-69歳の女性で平均歩数を6.6%減少させ、男性で14.7%減少させることが報告されている。今回の対象者の年齢は先行研究と比較して高値を示すが、LSAの減少からも新型コロナウイルス蔓延による歩数の減少は考えられる。高齢者に対し1日当たり1500歩の歩数の制限を行うと、2週間で約4%の下肢筋量が減少するとされている。しかし、今回の対象者は膝伸展筋力やTUGの低下に至っておらず、スペースワンダーの運動は新型コロナウイルス蔓延の影響によるコロナフレイルを防止できる運動であったと考える。